本稿では、国内海外トップの写真家やデザイナー、ディレクターの方々から求められた写真の色調について解説しています。
僕は、国内海外の多くの写真家の写真集やプリントに使用する写真、画像の色調補正とプリンティング・ディレクターとして、20年以上、携わってきました。
彼らから求められてきた色調再現の共通点、そこから得た色調補正のスキル、本質についても解説しています。
写真・画像の色調『写真家たちが求めた「美しい」と表現する色調とは』
トップの写真家、デザイナー、ディレクターから常に求められた経験談
「美しい」と感じる基準は人それぞれです・・・・
文字どおり、トップの写真家、デザイナー、ディレクターの錚々たる方たちは、要望する写真の色調をさまざまな言葉で表現します。
彼らがイメージする色調を表現した言葉、要望を聞いて、イメージに変換したり理解することは非常に困難でした。
その結果、当然、トライアンドエラーを繰り返すことになりました。
そして、一般的な感覚、端的に表現される「キレイ」な色調ではない、それではまったく通用しないことがわかってきました。
彼らが使ったさまざまな言葉の中からもっとも腑に落ちた端的な表現は、「美しい」です。
最初は「美しい」という表現の本質、意味が理解できず、その色調がイメージできませんでした。
当時は、「キレイ」でなく、「美しい」色調って何だ・・・・となっていました。
色調のイメージを伝える言葉は抽象的になることが多いのです。
しかし、それらの表現をまとめると「美しい」の一語が最も適当だと思います。
答えは、「発色」ではなく「階調」
そして、場数を踏んでいき、それが解ってくると、最終的には「わかるよね?」といった要望になっていきました。
このことから、私がお伝えしたいことは、写真の「美しさ」を表現するためには、少なくとも「階調」の再現は絶対に欠かせなかったという真実です。
「美しい」と表現する色調は、決して特殊で感覚的なものだけではなく、多くの方が共感できる色調表現だと思います。
「美しい」色調を実現するためには、「階調」の再現力は「基礎・基本」であり、必須のスキルになります。
国内海外のトップ、一流の写真家、デザイナー、ディレクターの方達からは、必ずといってよいほど求められたスキルです。
私の経験から、写真・画像の「美しい」色調とは、まず「階調」の再現力が欠かせないと実感しています。
写真・画像データの色調【色調補正の「正解」と「本質」】
写真・画像データの色調の表現は個々の自由ですが、色調の再現には「正解」があります。
少なくとも、「正解」の範囲はあります。
『画像の色調補正【「基礎・基本」編 | 補正例と画像で見る効果】』で解説していますが、まず適正な色調補正を行う必要があります。
なぜなら、写真・画像を鑑賞したりプリントする機器の色調再現は、色調補正と同様のルール、基準で管理、設定されているからです。
ですので、少なくとも、そのルール、基準に則った色調補正を行うことが求められるということになります。
このルール、基準から外れてしまうと、思った通りの結果にならならない可能性が高くなってしまいます。
「基礎・基本」通りの色調補正ができている写真・画像であれば、あとは、その後工程の出力機器の責任であり仕事です。
「正解」を導くためにも、色調補正には「基礎・基本」の手順があります。
個々の感性の表現は、まず「基礎・基本」の土台の上に立った方が、個々の表現を実現できる可能性は高くなります。
写真・画像の色調再現は感覚だけでなく、「基礎・基本」の「正解」を目指す必要があるわけです。
デジカメの画像を色調補正する際、画像データの選択には「RAW」と「JPEG」データがあります。
では、どちらの画像を使うと色調を再現するには有利なのか?
また、どれくらい色調の再現力には違いがあるのか?
下記の記事では、「RAW」と「JPEG」との色調の再現力、クオリティーの実際の差を比較、解説しています。
画像データ【「RAW」と「JPEG」画像の階調の再現を比較】
画像の色調を補正するとき、画像データの選択によって色調の再現力、クオリティーに大きく影響を及ぼします。
ですので、目標の再現力、クオリティーの高さに見合った画像データを選択する必要があります。
デジタルカメラで撮影された画像データには、「RAW」というデータと撮って出しと呼ばれる「JPEG」という画像があります。
この2種類のデータの階調の再現を比較してみます。
比較してみると、高いクオリティーを目標にしたい場合は「RAW」データから色調補正を行うことが最善だということが理解できます。
その理由は、「RAW」データには非常に豊富な色調情報が記録されているからです。
「RAW」と 「JPEG」の使い分け【再現力、クオリティーが高い順とは】
「RAW」データ と 「JPEG」データは、求める色調の再現力、クオリティーに応じて使い分けることが必要だと思います。
色調の再現力、クオリティーが高くなる順は下記のとおりです。
①「RAW 」データを使って色調補正をする
②「JPEG 」データを使って色調補正をする
③「JPEG 」データをそのまま使う
色調の再現力、クオリティーの高さ、美しく仕上がるデータを選ぶ基準は、データが記録している色調の情報量で決めます。
色調の情報量が豊富なほど、色調のクオリティーは高く、美しく仕上がる可能性が各段に大きくなります。
「RAW」データと「JPEG 」データとでは、色調の情報量に大きな差があります。
「RAW」データと「JPEG 」データとでは、実際にどれくらい色調情報の差があるのかを、下記の項で解説していきます。
「JPEG」と「RAW」との色調の再現力の差を比較
「JPEG」データと「RAW」データとでは、実際にどれくらい色調に差があるのかを、画像を使って比較してみます。
比較する画像は、同一のカメラで撮った同一カットの「JPEG 」データと「RAW」データから色調補正した画像です。
下記の2点の画像は、
上が、撮って出しと呼ばれる<カメラに保存されている「JPEG」画像>
下が、<「RAW」データを現像、色調補正した画像>
です。
カメラに保存されている「JPEG」画像
「RAW」データを現像、色調補正した画像
上:カメラに保存されている「JPEG 」画像
明部の階調はほとんど再現されていませんし、暗部の階調はほぼ真っ黒くつぶれてしまいす。
雲と霧は、ただ白いだけで、様子や表情はまったくわからない状態です。
手前の草木の最暗部周辺は黒く暗く沈んでいて、つぶれかかっています。
下:「RAW」データを現像、色調補正した画像
明部と暗部ともに、階調は再現されています。
雲と霧、また手前の草木の様子、表情がしっかり見てとれます。
<カメラに保存されている「JPEG」画像>と比較すると、明部、暗部ともに圧倒的な再現力の差となっていることがわかります。
「JPEG」から「RAW」レベルの色調再現は可能か?
<カメラに保存されている「JPEG」画像>を使って、<「RAW」データを現像、色調補正した画像>レベルの色調再現が可能であれば、わざわざ「RAW」データを使う必要などありません。
前述の画像の比較で、<カメラに保存されている「JPEG」画像>は明部の階調の情報はほぼ失われていて、雲と霧はただ白いだけの状態でした。
また、暗部の階調の情報もほぼ失われていて、手前の草木は暗く沈み、大半の階調はつぶれ再現しきれていない状態でした。
この状態の<カメラに保存されている「JPEG」画像>から、<「RAW」データを現像、色調補正した画像>レベルの階調を再現することは不可能です。
なぜなら、<カメラに保存されている「JPEG」画像>のように、失ってしまった階調はもとには戻せないからです。
ですので、色調補正でクオリティーを求める場合には「RAW」データを使い、現像、色調補正を行った方が断然、色調の再現力は高くなることが多くなります。
また、再現力が高くなるので表現の幅も広がります。
それだけでなく、「RAW」データからの作業は負担が多いように感じますが、実は「JPEG」画像から無い階調を出そうとするより色調再現は簡単に済むことが多いです。
まとめ
色調再現で求められることとは
僕の経験から、トップの写真家、トップのデザイナー、トップのディレクターたちから、色調再現に求められることとは何かについて解説しました。
その答えは、共通して求められたことは常に「階調」の再現でした。
そして、色調補正の「基礎・基本」と上達するために追求していくべきことも「階調」の再現に尽きます。
つまり、色調再現に求められることと色調補正で追求していくことは一致しています。
色調の再現、補正の本質とは
色調の再現、補正の本質とは、「階調」の再現です。
色調補正の上達方法の1つですが、ぜひ、モノクロ写真の色調補正に取り組んでください。
発色に依存する色調再現、表現は、スキルがなくても簡単に誰でもすぐにできます。
しかし、色のない階調だけのモノクロ写真では、「階調」の再現だけで美しさを再現する能力が求められます。
モノクロ写真の色調補正を追求すれば、おのずとカラー写真の色調補正のスキルも上達します。
また、「RAW」データの現像でも色調補正のスキルは必須になります。
このスキルが高いほど、「RAW」データが保持している色調情報を生かすことができるので、「RAW」データを使うメリットはより大きくなります。
繰り返しとなりますが、色調補正の本質は「階調」の再現です。
写真の色調再現のクオリティーは、色調補正のスキルに依存しています。
色調補正の本質を見誤ると、ツールの使い方に慣れるだけで本当のスキルアップはのぞめなくなります。
ぜひ、本質から外れない取り組み方でスキルアップしていき、よりクオリティーの高い再現力を目指していただきたいと思います。
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